4. 入社前検診

1/22 朝から健康診断で生駒に向かった。検診なんか入社後でええやんけ、もし身体悪かったら内定どうするつもりやねんとか、どうでもいいことをあれこれ思いながら車を走らせる。

 

他の病院は定期検診待ちが長く、御社ァの提出期限に間に合わせるために、ここを選んだ。が、高校時代の糞顧問の最寄りってだけで虫酸が走る。できるだけ呼吸の数も減らしたいくらいに居心地が悪かった。無論、病院は何も悪くない。

こうやって思い出している時でさえ、脳が、記憶が、感情が、やつに支配されている。他部活の連中から、宗教だの北朝鮮だの言われても、またいわゆる洗脳疑惑の部員がいても、俺はどうでも良かった。でもそこから抜け出せず、飲み込まれ、墜ちてしまったのは、まぎれもない呪縛で、その力に負けたことに他ならない。

 

この約4年の間に、日本は少しずつ変わった。たしかブラック(企業)なんて言葉は、当時帰り道の電車で見ていた2chまとめでしか広まっていなかったはずだ。内部告発やらMeToo の概念がもっと普及していれば、過去は変わっていたのだろうか。

 

今夜、東京では20センチもの積雪が観測されたらしい。それでも世間では残業、翌日には定時出勤が残っている。年功序列ムラ社会、ホンネとタテマエ、おもてなし、理不尽、矛盾。超日本的な窮屈さを敏感に感じるあたり、自分らしい。

 

3. 最後の連続

1/17 水曜日。1限の期末テストが終わり、ひとり食堂にいる。いつも2限は静かでほとんど人もいないのに、今日は課題とテスト勉強に追われる学生で賑やかである。

 

朝のテレビは震災の報道で持ちきりだった。6時半過ぎに観たのもあってか、現場の中継の様子はなく、避難とか防災グッズの特集ばかりだった。前を向いて将来に生きていこう、とのメッセージにもどこか感じた。こんな朝早くに大地震が起こり、多くの人生が変わってしまったなんて未だに信じられない、生まれる10ヶ月前の状況に想いを馳せた。

 

昨夜のテスト勉強は捗らず、レポート点でなんとかなるだろうと、最後まで気を抜いていた。結果、可で単位はもらえる程度にはできた。そんなことで、ぼーっとしながら、いつもの以文館食堂に来た。

 

コスパが良いという理由だけで毎回頼んでいた麺定食だが、会計時、そういえば、もうこの食堂に足を運ぶことはないとふと気付いた。「次は社会人として、いつか来させてもらいます」調理のおばちゃんとそんな会話を交わした。

顔も名前もそこまで覚えていない関係だけど、こんな大したことない会話でも胸に来るものがあった。何気ない普段のひとコマも、こんな時期には身に染みて重い気持ちになる。

 

そういえば、さっきのテスト後に喋った友達も最後だったのかもしれない。互いに疎遠になり、自分の道を歩んでいく。

 

2. 夜行バス

1月6日深夜、夜行バスで東京に向かう。バイト帰りでやや疲れた身体、走行の雑音を相殺するようにウォークマンを流し眠りを誘わせる。四年間使っているバックパックはすっかり旅に欠かせなくなった。

 

去年の年越しNYカウントダウンから丸一年。ちょうど今頃は確かワシントンD.C.からロンドンに向かっていた。

寒さで気分が落ち込む冬の旅は、かさばる荷物とともに心身重くのしかかる。

ただ、時間の経過をひたすら耐えるような、こんなゆったりした旅行ができるのも残り3カ月になった。あと少し限られた学生生活を悔いなく過ごさないとなんて行き場のない焦りも東京に乗せてゆく。

1. 正月

また一つ年が明けた。

あと3ヶ月で学生生活は終わり、新社会人になる。

せっせと学び、働いて、じきに来年が来る。そして平成が終わり、あっという間に東京オリンピック

社会に出たらそんなことをいちいち考える間もなく、時は過ぎていくんだろう。


小さい頃、元旦の楽しみだった年賀状も今年は疎い。

同時にLINEの普及を改めて実感した気もするし、色んな人と年々疎遠になっていく切なさも感じる。

これまで毎年送ってくれてた小6の担任からも、今年とうとう来なくなった。確か去年で定年退職だったし、最後に担任を持った俺らの代も、今や進路や生活は人それぞれバラバラだし、ちょうど節目だと思って送り続けるのもやめたんかな。

前に担任を見かけたのは成人式の時。教員はみな運営の裏方で忙しそうしていて、声を掛けるチャンスはなかった。もし会っていたら、自分の近況とか当時の思い出とか、何を話してただろう。

成人式で数年ぶりに会ったクラスメイトは、顔付きや喋り方はそんなに変わらなくても、性格や雰囲気が当時とだいぶ違う奴もいた。

働いて数年経つのもいれば、もうすぐ結婚するのもいる。よく生徒指導室に呼ばれてたような奴も、仕事や家庭に責任感を持って毎日を暮らしている。同じ歳なのに俺なんかより数百倍大人に、かっこよく見えた。

それまで同じように生きていても、環境が変われば、人は知らず知らず変化するものなんだと強く感じた。


年末、忘年会で多くの人と語り合った。中には、学歴や企業名で人を決めつける空気もあった。特にこの時期、道が分かれる直前や再び集まった時には仕方ない流れかもしれない。ただ、それぞれの生い立ちや歩みや環境や考え方や夢をなに一つ知らないのに、単に肩書きで物事を判断したくないと自分に言い聞かせた。